竹中工務店 大工道具館 AA visiting schoolレポート

レーザーカッターレンタルを行った竹中工務店大工道具館でのイベント「AA visiting school」のレポートが届きましたので報告させていただきます。

 

日時:2019313日~24

場所:竹中工務店大工道具博物館

   竹中工務店大阪本店

   法隆寺、唐招提寺、興福寺

   奈良県吉野地方

 

<概要・目的>

 

英国AAスクールが世界各地で企業や大学と行うワークショップ”AA visiting school”AAスクールと竹中工務店大阪本店共催、竹中大工道具館が協力という形で開催されました。

「伝統と革新」をテーマとして、12日間の期間中様々な「道具(ツール)」を駆使して伝統木造建築のエッセンスを取り入れた新しい「塔」を設計し、製作しました。

AAスクールが世界中で募集した16ヵ国28名の参加者が集まり、また大工やデジタルファブリケーション、歴史家などの様々な専門家を国内外から招聘し、講義や技術指導、議論を行い、奈良や京都、吉野においで伝統建築や素材の生産地を見学し理解を深める機会を設けました。そしてBIMやコンピューテーショナルデザインなどの普及が目覚ましい一方、大工技術をはじめとする伝統技術の継承が課題となる現代において、伝統、最新の技術双方を組み合わせ将来へとつないでいくかという事を考える機会、また国内において国際的な人材に巡り合える機会を社会貢献として提供する事を意図しました。

<案作成・モデリング>

 

 

Phase01では、初日に竹中大工道具館の展示、奈良の古建築(法隆寺・唐招提寺・興福寺)を竹中大工道具館の坂本忠規氏の解説のもとに見学しました。2日目から竹中工務店大阪本店にて、5班に分かれ伝統木造建築のエッセンスを取り入れた新しい「塔」のデザインを考え、毎日、班別・全体クリテイークを行い、5日目に中間評議会を行いました。実際に塔を製作するにあたり、使用できる材料の種類や数量を部材リストとして配り、効率的・効果的な使用を参加者に求め、また伝統木造の塔のエッセンスとして木割や規矩術といった寸法体系や、心柱の構造的な意味、組物や継手・仕口をパラメトリックな視点も取り入れて説明しました。参加者は3DモデリングソフトであるRhinocerousとそのプラグインソフトであるGrasshopperを用いて、パラメトリックモデルを作成する中で伝統木造建築の部位や構造の理解、ツールを用いた構造解析や最適化を学びました。

各グループによって提案された、様々な新しい塔のデザイン

<部材製作・組立>

 

Phase02-03では最初に吉野を訪れ、山守による林業や山の維持管理、樹種や特性の説明、吉野杉が使われた建築の例として長谷川豪氏の「吉野杉の家」、製材所にて実際の加工や材料の保管方法も見学しました。今回のワークショップの塔の制作には吉野材(軸部にヒノキ、屋根材に杉の柾目板)を使用しています。その後、大工技術の基本の講習を行い参加者自身で仕口や継手の加工を指導を受けながら行いました。作成に当たっては、決定案軸部の施工用モデル、図面を作成する班、屋根面のデザインを担当する班、木材の仕口部分を加工する班、決定案の構造的、視覚的効果を最適化プラグインWallaceiを用いて詳細な検討、最終プレゼンテーションを行う班に分かれて作業を行いました。

 

実際の加工においては、軸部は大工道具を用いた手加工とhandibot(Nカッター)による加工を組み合わせて行いました。全てではありませんが、まずhndibotで粗削りを行い、その後手加工による仕上げを行う事で作業の短縮を図りました。屋根部は全て150 x 600mmの柾目板をレーザーカッターで加工し、フィンガージョイントによる長手方向のジョイントと組み合わせることで垂木の補剛性を兼ね備えた屋根を作成しました。

大工による指導のもと、参加者が木加工を行う

仕口のみを加工し、建方はわずかな時間で完成した

<軸部>

 

 

handbot(Nカッター)による加工

handibot(Nカッター)による仕口部の加工

部材毎に3D化された仕口モデル

<屋根部>

 

 

150mm幅、長さ600mm、厚さ5mmの杉の柾目板をレーザーカッターで加工し、人の手で組み上げている。3DモデリングソフトRhinocerous+Grasshopperでモデリングし、軸部との接合を確認した上でレーザーカッターにて部材を切り出しました。伝統木造の垂木の上に画材を張るという構成から樽井自体が面的な合成をもち、レシプロカル構造である軸部の力感にそったデザインとなるように工夫しました。実際に加工する前に、部分的なテストを行い、強度や接合方法、加工に必要な時間を検討しました。

部材強度や接合のテスト

レーザーカッターによる部材の切り出し

尾垂木間の屋根1ユニット

<相持ち構造(レシプロカル構造)による塔>

 

 

本構造は、代表的な伝統木造建築の矩形平面における尾垂木の「桔木」のシステムを5角形にした際に相持ち構造(レシプロカル構造)とする事で接合部を単純化し、軒を出すために断面システムを柱と梁を斜材で兼ねる事によって立体的に拡張しようとしたものです。鉛直力を受ける材が角度を持っていることから、荷重が載荷されると柱の傾きに応じてリングを外側に開こうする力が生じるが、この力に対して五角形で構成されたリングが抵抗するため、荷重が載荷されるほどテンションリングに生じる引張力も大きいものとなり、日本古来の貫構造において楔をうって架構を固めるごとく、部材同士がより強く結びつく構造となっています。

最終成果物の塔と展示パネル

https://www.aaschool.ac.uk/STUDY/VISITING/osaka